本を手掛かりにデザインする。

お施主さまからデザインの手がかりにと教えて頂いた一冊の本。建築の雑誌からイメージを伺うことは多いですが、文字だけの本をお題に頂いたのははじめてです。

鞄はただそこにあるだけで、どこか遠くと結ばれている。鞄が人を遠くへ誘うのだ。 口を開けた鞄にのまれ、それで見知らぬ旅へと出発できればこれ以上のことはない。(クラフト・エヴィング商會 「アナ・トレントの鞄」)

 

奈良町。かつて軒を並べた商家の多くは失われ、もう地図上に存在しない町。その片隅に、どこかで誰かが使っていた遺物を蒐集するカフェをつくるなら、旅の行商人が珍しい品々を詰め込む「鞄」のような容れ物が相応しい。

 


古今東西の品々を整然と収納できるよう極めて機能的に。客先で開けば陳列棚に早変わりするよう極めて装飾的に。その「鞄」だって、いつどこで、誰の手でつくられたのか分からない。失われた街にある失われたカフェ。人はその「鞄」に呑まれて時間と空間の旅に出る。

 


・・・そんなカフェをつくりたくなりました。