兵庫の建築巡り:武庫川女子大学甲子園会館(旧甲子園ホテル)

神戸松蔭女子学院大学のインテリアの講義では、半期に一度、学外研修を組み込んでいます。今年度は西宮市にある武庫川女子大学の甲子園会館を見学させて頂けることになりました。今は大学のキャンパスとして利用されていますが、かつては甲子園ホテルという豪華なホテルで、東の帝国ホテル・西の甲子園ホテルと言われた程の存在です。東京の帝国ホテルは既に解体されていますので、極めて貴重な建築です。建築や歴史に造詣が深い大学の方に案内して頂きながら、贅沢な見学会になりました。

 

どうして今回この建築なのかというと、諸事情ありますが、見ての通りの理由が一番です。NHK朝の連続テレビ小説「まんぷく」の撮影でつい最近使われたばかり。タイムリーなドラマのロケ地なら学生に興味を持ってもらいやすいのでは、いう策です。それはともかく、この中央の泉に射す5筋の光。

 

対面するハイサイドライトからの自然光です。冬至の日に光が的確に泉に落ちる設計ということで、冬至の少し前・かつ晴天だったこの日は、ほぼ理想的な状態でした。冬至の日には毎年見学会も開かれているそうです。

 

吹き抜けのあるラウンジ。左手に見える廊下から若干レベルを上げています。右手には松林。舞台が如き演出が見事です。さらにラウンジの下は厨房になっていて階上にサービスできる設計と聞くと、もはや唸るしかありません。厨房部分は現在、武庫川女子大学の建築学科のアトリエになっています。何とも恵まれた環境ですね。

 

ラウンジからつながるメインホール。2階のブリッジはオーケストラが入るスペース。舞踏会で山田耕筰がオーケストラを指揮したなど、伝説的な話がいくつもありますが、関西人なら「創立の翌年、チームの激励会で六甲颪(のオリジナルである大阪タイガースの歌)が初披露された場所」と聞くとその凄みが一番よく伝わります。

 


ホールの天井。アール・デコと和風の折衷。

 


ホール中央部の天蓋。元は金箔貼りだったそうです(現在はペイント)。金箔は成金イメージがありますが、金メッキと違って上品な輝きがあります。白黒写真しか残っていないため往時の姿は分かりませんが、きっと素晴らしい空間だったことでしょう。いつか復元してほしいものです。

小部屋のフロアタイル。大阪の豪華レトロ建築、綿業会館の談話室にあるタイルタペストリーと同じ、泰山製陶所の作品なんだそうです。どうやって貼ったんでしょうね、これ。

 

南側外観。東京の帝国ホテルや自由学園、芦屋の山邑邸はフランク・ロイド・ライトの設計とされていますが、実施設計ではその弟子である遠藤新が主要な役割を果たしています。旧甲子園ホテルの設計者はその遠藤新なので内容的にライト作品と遜色がなく、ライト自身も非常に評価していた記録があるとのこと(椅子は気に入らなかったそうですが)。シグネチャーモデルかどうか、ぐらいの違いですね。

 

屋根のアップ。建物全体に「打ち出の小槌」と「滴る滴」をデザインモチーフに様々な装飾がデザインされています。お金がどんどん沸いてどんどん滴る、いわゆるトリクル・ダウン。ライトの謎めいたマヤ風デザインが関西人の分かりやすい商売繁盛デザインに刷り替わっていて痛快です。

 

ライト印の細密な外壁意匠。山邑邸と違ってこの建物では大谷石を使っていないので、100年近く経っても比較的状態は良好です。

 

そんな感じで甲子園会館の見学は終了。その後、松林を挟んで建っている建築スタジオ棟も見学させて頂くことができました。設計は日建設計。こちらはまだ新しい建物です。

 

うちの学生たちはバリバリの建築学科ではないので、大きな模型や図面が所狭しと並ぶカオスな建築学科の雰囲気に刺激を受けたようでした。引率のやまもとはエッジの効いた日建ディテールを見ながら一人ため息。

 

建築スタジオの屋上から甲子園ホテルを見る。阪神間でこの広大な敷地。本当に贅沢な場所です。貴重なレトロ建築と、予定外に建築学科の建物も見学させて頂くことが出来、非常に実りのある学外研修となりました。ありがとうございました。