047 阿倍野の屋敷

市街地に残った蔵のある古民家の改修

天王寺駅の南に広がる阿倍野。明治から戦前にかけて、天下茶屋駅の東斜面には池の周りに料亭や茶室を拝した風光明媚な公園がありましたが、今では狭い路地を挟んでマンションや大小様々な住宅がひしめき合い、往時の面影はほとんどありません。そんな路地の一角に奇跡的に残されていた屋敷をあるご家族が引継ぎ、次の世代へと命をつないでいく僥倖に恵まれました。屋敷の建築としての履歴は定かではなく、蔵は戦前、母屋は戦後の建造との資料があるものの、複雑な入母屋架構や大断面の太鼓梁、背の低い障子など、母屋の一部にも戦前の建物の特徴が認められます。おそらく昭和期に何度か大規模なリフォームが施されて母屋と蔵は屋根続きとなり、キッチンや水回りが近代化し、応接間や離れが付加されたのであろうと思われます。計画にあたっては和室の設えや古い無垢材・架構の持つ力強さ・大らかさと、現代的な生活や性能とが歪み合うことなく共存共鳴できるような在り方を心がけました。母屋の中央付近に天井が高いLDK、それを挟むように玄関・水回りを配置しながら内部・外部にいくつかの回遊性を仕掛け、スムーズな動線計画としました。式台や床板は慎重に取り外し、鉋掛けして階段や造作材に転用。障子や框戸も多くは補修し、配置を組み替えて再利用。つぎはぎリフォームで辻褄が合わなくなっていた増築部分や離れを撤去して、防水・構造耐力・採光を無理のない状態へと整理しました。

玄関の位置を移動して客動線・生活動線を整理。
玄関の位置を移動して客動線・生活動線を整理。
平屋部分の天井を上げて梁を見せ、大きなLDKに変更。
平屋部分の天井を上げて梁を見せ、大きなLDKに変更。
立派な設えの和室はそのまま残して修繕。
立派な設えの和室はそのまま残して修繕。
離れを減築してウッドデッキ化。
離れを減築してウッドデッキ化。
平屋部分の天井を上げて梁を見せ、大きなLDKに変更。
2階は和室を寝室化。耐震補強を施しながら収納スペースを増やす。
2階は和室を寝室化。耐震補強を施しながら収納スペースを増やす。

阿倍野の屋敷の軌跡