リノベーションという言葉が広く知られるようになり、SNSも発達したことで、家づくりの選択肢として古民家改修をご検討される方が増えています。たくさん住宅のストックが余っている我が国の状況を踏まえると大変好ましいことです。ただ、古民家改修は全てをゼロから計画できる新築と比べて色々な制約があるため、本当に古民家改修を選択すべきなのか、計画の初期段階でよく検討する必要があります。ここでは古民家改修の考え方や進め方、メリット・デメリット、リスクなどをご紹介します。
■ざっくり古民家の年代的特徴
わたしたちが数多く調査・設計してきた関西地方の古い住宅について、築造時期に応じた特徴や改修の方向性をご紹介します。ただ築造時期がそのまま建物の現状に当てはまるとは限らず、新築時から現在までの間にリフォームや改修工事が行われていれば、建物はそのリフォームが行われた時期の特徴も備えています。新築時からの履歴を遡りながら、どの箇所にどういう改修を行えばよいか、検討する必要があります。
1.明治以前(~1912)
まさに古民家・オブ・古民家ですが、古い家が多いイメージのある奈良・京都でも、実はお目にかかれる機会は稀です。元々庶民向けの日本家屋は屋根重量に対して構造が華奢なので100年程度経過すると瓦・土の荷重に耐えられず軒先が垂れ、2階の床も傾いてきます。それ以上の年月、風雪に耐えてきた住宅は大きな柱梁の骨組みを持つ商家や農家のお屋敷がほとんどです。改修にあたっては登録有形文化財への申請も考えられますが、登録が認められた場合でも、改修に大きな補助金が出る訳ではないので維持管理は大変です。伝統的建造物群保存地区など、まちなみが維持保存されている地域であれば、関係官庁との折衝・申請によって比較的大きな公的支援が得られる場合もあります。建て方としては、石の上に柱を載せた石場建て形式、柱は4寸(120mm)以上、竹小舞の土壁、屋根は土葺き+本瓦葺や藁葺といった伝統工法です。間取りは居室が和室か板の間、キッチンは土間の炊事場(竈門)、トイレは離れ、建築としての風呂はありません。2階は居室ではなく倉庫や養蚕に利用し、町家では天井高をかなり抑えたものも見られます(厨子二階)。
2.大正~戦前(1912~1945)
古民家改修の対象として一番多いのがこの時期の建物です。日本人の住み方が大きく変化した時代なので、旧来の日本家屋の住み方と西洋的な住み方がブレンドされています。その大正レトロな雰囲気は新築では得難いものです。建て方は石場建てが基本ですが、一部コンクリートの基礎も見られます。柱は自宅用住宅では4寸(120mm)角が基本ですが、借家や長屋では3.5寸(105mm)角も見られます。壁は竹小舞に土壁、屋根は土の上に桟瓦葺きが一般的です。外部建具は木製枠にシングルガラス。表面が少し波打ったガラスは今では手に入らない貴重なものです。内部建具は内法高さ1730mm程度で統一されている場合が多く、現代の成人男性では頭を打つぎりぎりのサイズ感です。間取りとしてはキッチンは土間と竈門、居室は和室中心ですが応接間など洋間が混じっている場合が見られます。2階も十分な天井高を確保して居室利用し、離れで風呂・トイレを設けたものが多くなります。柱・梁が露出した真壁造が基本のため、当初の姿を留めていれば実測や構造部材の目視確認は比較的容易です。法的には建築基準法施行以前の建築物のため、建て替えた時に同じ位置に同じ規模の建物を計画できない場合があります。
佐保路の家(大正期築) before
after
3.戦後復興期(1945~1964)
この時期は新築された軒数が少なく、古民家改修の対象となる物件もあまり多くありません。戦前に建てられた住宅もまだこの頃は健全だったので、この時期に大規模なリフォームを行っているケースも少ないです。
4.東京オリンピック〜70年代(1964~1981)
大幅に人口が増え、高度経済成長とも重なって、新築住宅がたくさん建設された時期です。中古物件として割と多く市場にも出回っているので、この時期の建物は改修のご相談も多いです。かつては「古民家」と呼ばれるものではありませんでしたが、当時の生活や家具・家電などが「昭和レトロ」として評価されるようになり、築年数が50年を越えて意匠・構造・設備が劣化し、大規模な改修が前提となることから、今では古民家改修として考えるべき建物であろうと思います。また、戦前の住宅についてもこの時期にリフォームが行われ、昭和の生活スタイルにアップデイトされているものが多く見られます。建て方は、鉄筋コンクリートの布基礎かベタ基礎、柱は4寸か3.5寸、壁は和室周りは土壁ですが洋間は断熱材を入れてボード張りしたものがあらわれます。屋根は瓦葺きでも下地が土ではない引掛け葺きのものが見られます。鋼板葺きや化粧スレート葺きも広く用いられています。新建材と言われる工業建材が導入され、仕上げや屋根、外壁などに利用されていますが、それらにはアスベストが含まれている可能性があります。外部建具は多くがシングルガラスのアルミサッシ。内部建具は内法高さ1800〜1900mm程度が確保されています。間取りは現在の考え方に近いですが、廊下と居室がしっかり分離していて、LDKではなくKやDKが1つの部屋として計画されているものが多いです。キッチンはメーカー製のセクショナルキッチン(バラバラのベースキャビネットを組み合わせてステンレス天板を乗せるタイプ)が一般化します。風呂・洗面・トイレは離れではなく家の中に配置されます。階段は手をつかねば登れない程急勾配のものはありませんが、手すりがないものも見られます。和室周りは真壁造ですが、洋間は化粧合板を仕上げに貼った大壁造が多く、構造体が壁の中に隠れている部分では解体前に柱梁の位置や劣化状況を把握することが困難です。都市計画区域内であれば、多くの建物が確認申請を行った上で新築していますが、当時の風潮として完了検査が未済のものがほとんどです。
愛でる家(1977築) before
after
5.新耐震基準以降(1981~現代)
1981年に建築基準法の大きな改正が施行されました。それ以降の住宅は現行の建築基準法の基準に近い形で建てられているので比較的軽度の構造補強で住む場合が多く、間取りの面でも現代の住宅と大きな変化がありません。設備もまだ継続利用できる場合があります。そのためこの時期に建てられた住宅の改修はいわゆる戸建てリノベーションとして扱い、一般的に古民家改修には含まれません。