manifest|考え方

家や建物のつくり方には様々な方法があり、それぞれ一長一短があります。ファストフードやファミリーレストランのように定型・安価・短時間で出来る建築をご希望ならハウスメーカーや建売住宅がおすすめです。また、地場産の建材や性能に特化した住宅をお考えなら、それを得意とする工務店・建設会社に依頼されれば良いサポートが得られるでしょう。事実、我が国ではこれらが大半を占めています。ただ、これらの建物のつくり方には2つの大きな弱点があります。1つめは建物が商品としてパッケージ化されていたり柔軟に対応できる設計者がいないために、設計の自由度が低いということです。標準から少し外れたご希望を叶えるために大きな追加料金が必要になったり、いくら希望を伝えても設計に反映されないといった事が起こります。もう1つは工事金額・工事内容の透明性が低いということです。建設会社と建築主が一対一で建物をつくる場合は、分かりにくい見積書や専門的な工事内容について、それが適切なのかどうか判断することが難しく、ネットで信ぴょう性の低い情報に頼ったり、言われるがままに進める以外ありません。

これらの弱点を克服するつくり方として、設計事務所に依頼する方法があります。設計を本業とする建築士と直接設計の内容について打ち合わせしながら計画を進めることが出来、決まったパッケージや使用建材・構法の制限も特にありません。建設会社と建築主の間に立って、建築主の希望を建設会社に伝え、専門的な見積や工事内容を咀嚼して、それが適正かどうか建築主に伝えます。

ただ現状、設計事務所に依頼することは「建築家」に依頼することとほぼ同義です。目を引くデザインや我の強い建築をご希望であれば最適な選択ですが、多くの方はそういう家や建物を必要とされている訳ではないので、「自分たちにとって最適な建築を、最適な方法でつくりたい」というご要望を叶える方法が実はわが国にはほとんどありません。

私は突飛な建築をつくることより「最適な建築を、最適な方法でつくる」ことを第一に考え、お施主様のご希望に応えられる建築設計者でありたいと考えています。建築の計画には実にたくさんの与条件があり、1つとして同じものはありません。設計者が無理に我を主張せずとも、計画の個性を大切にして最適な設計を行えば自ずと個性的な建築が出来上がります。そういった設計を理想と考えています。それは従来の「建築家」とは少し異なる職能なのかもしれません。

一生に数回しかない貴重な建築の計画にご協力させて頂ければ幸いです。

山本嘉寛

大切にしていること

外観夕景。アルミのフェンスやカーポートを撤去し、オープンな外構に変更。

寿命の長い建築。

完成後、お施主さまに永く使われる建築がよいと思っています。厳しい風雨に耐えうる構造・設備の性能はもちろんのこと、新築ではプリントやプラスティックな素材は極力避け、リノベーションではすでにある古い素材を大切に、時が経つほど人に馴染む素材使いを心がけて設計を行っています。

土間の使い方に応じて表情が変化するファサード。住居なのかお店なのか事務所なのか、曖昧な立ち姿。

無理なく無駄なく。

複雑に絡み合った条件をできるだけ整理して、シンプルな建築を設計するように心がけています。条件を整理していくと自然とそこに行き着いた、という無理・無駄のない設計が一番よいと思っています。

若いご夫婦とお子様たちのための古家改修です。

主役はお施主様。

プロジェクトにおける主役は建築家ではなくお施主様です。私たちはお施主さまを脇でサポートし、お施主様の代理として建設会社や行政庁と向き合います。お施主さまの想いをお聞きして、一緒に悩み、考えながら設計を行っています。

1つ屋根の下の2世帯住宅。

竣工がスタート。

建築は工事の竣工時が100%ではなく、お施主さまが住んで、使って、色々な人と物が共存している状態が完成と考えています。建築家にとってのゴールではなく、お施主様にとってのスタートラインとなる建築をつくりたいと思っています。