近頃DIYという用語もすっかり身近なものになりました。雑誌・TVで特集が組まれ、ホームセンターの折込チラシには必ずといって良いほどこの用語が踊っています。「自分でできることはプロに頼まず自分でやってみましょう。」「出来は多少悪くても自分だけが使うので問題ありません。」「ちょっとした工作も楽しいですよ。」「おまけにコストも大幅に圧縮できてお得です。」という誰もが納得の触れ込みですが、では果たしてDIYによって、多くの方々が創造力を発揮し、身近なものづくりにチャレンジする社会が到来したのでしょうか。
DIYとは皆様御存知の通り、Do It Yourself. の頭文字です。一見何の問題もなさそうですが、少し立ち止まって考えてみると、「自分」に対してmyselfではなくyourselfが与えられていることに気が付きます。つまり、自分で出来ることは自分でやろうぜ、と呼びかける「私」が居て、その呼びかけに応えて工事を行う「あなた」が居る。メディアやホームセンター、家具量販店である「私」が、「これとこれを買えば手軽につくれますよ。」「このパッケージに入った部材を組み立てれば出来上がりますよ。」と「あなた」を誘導し、組立費をコストダウンしながら商品に付加価値を与える実に巧みな販売戦略であるということが分かります。
一方で、ごく一部のクリエイター層にはすっかり浸透した「セルフリノベーション」という用語があります。だれも買わないような中古の不良物件に価値を見出して、自分たちの力で好きなように改造する。誰から頼まれた訳でもないので、そこにはmyもyourもありません。ゼロの状態から新しい空間を創造する魅力がある一方、完成形が見えないものづくりは苦難の連続です。私のような設計を生業とする者ですら二度とやりたくないと思うのですから、一般の方々にとって非常にハードルが高い行為であることは間違いありません。
この極端な2つのムーブメントをもう少し緩やかに結びつける何かを作れないか、という事は、私が独立して以来ずっと考え続けているテーマです。DIYは手軽である反面、あらかじめ完成形が定まっているために作り手の創造力が刺激されません。セルフリノベーションは思う存分創造力を発揮できますが、身を捧げる程の覚悟がないと踏み込めません。作り手の創造力を刺激しながら、手軽なツールとして用いることができる何か。DIYをDIM (Do it myself) に換えられる何かを作れないか、少しずつですが試行錯誤を行っています。