設計事務所の新しい使い方

大きな戸建て住宅の改修。いろいろお話をお伺いしていると、レトロな方向性よりむしろ白くて明るい雰囲気のほうが良いのではないか、ということになり、全体的にかわいい雰囲気で設計をまとめました。35帖の大きなLDK。階高が高いつくりのため、天井高は2,700mmの大空間です。

実は今回、私たちの業務はここまで。設計図やCGをベースに、引き続きお施主様と工務店が打合せを行い、アレンジを加えながら見積や工事を行っていく予定です。

普段行なっている建築づくりでは、お施主様、設計事務所、工務店の三者がトライアングルを形成しながら現場が進みます。それが一番透明性が高いピュアなつくり方ではあるのですが、お施主様と工務店が元々お知り合いであったり身内であったりしてその距離が近いと、トライアングルは正三角形にならず、二等辺三角形になったりいびつな三角形になったり、場合によっては形を作れない事もあります。そういう関係性の現場では往々にして、三者が独立している事で得られるメリットより、デメリットの方が大きくなってしまいます。

設計事務所が現場を監理するということは、設計したものを実現する責任を負うということです。そのため私たちは必死に工務店に設計意図を伝え、厳しく見積や工事内容をチェックします。しかしお施主様のつながりで決まった工務店さんが、設計事務所の図面を読み解き、施工する能力を有しているとは限りません。その上お施主様とのつながりで請け負った工事なのでアバウトな見積で大丈夫と考えていたり、自分たちのやりやすい工法や仕入れやすい材料を使う前提で施工費を抑えている事が多いので、設計事務所が監理に入るとその前提が崩れてしまいます。設計事務所と工務店が互いに責任を果たそうとするあまり円滑に現場が進まなくなってしまうことは、お施主様にとって好ましい事ではありません。

そういった場合の解決策として、今回私たちは設計のみ担当して業務を完了、図面をお施主様と工務店が解釈して完成まで引き継ぐ、という方式を採りました。設計した意図通りには出来上がらない可能性が高いのですが、設計の骨子が残れば、お施主様としては安くて早くてデザインの良い住宅を手に入れることが出来ますので、ある意味いいとこどりを出来る方式と言えるかもしれません。特に私たちの事務所は特殊な素材や工法に取り組んでいる訳ではなく、プランニング(間取り)を肝に設計していますので、工務店が多少アレンジを加えても、比較的設計の骨子は残りやすいデザインであるように思います。

このような進め方は私たちの事務所では初めてだったので不安もありましたが、設計事務所の家づくりが抱えるボトルネックである見積調整が不要なので、思いの外スムーズでした。建材の高騰や資材不足により見積調整が大変になる中、限られたご予算・時間の範囲内でよりよい建築を実現する手段としては、とても有効な方式なように思われます。今までも同様のお問い合わせは何度かあったので、「ライトプラン(仮称)」として設計の進め方などを体系化して、近々正式にスタートしたいと考えています。

設備関係はホワイトで統一。キッチン・洗面化粧台・お風呂は全てメーカーの既製品で設計。

主寝室。極力難しいディテールは避け、一般的な建設会社でも対応できるつくり方を心がけて設計。

居室と動線空間を分けたクラシックな間取りの体裁を取りつつ、無駄なく使い勝手の良いプランニングはいつも通り。

階段や手摺周りはお施主様からご希望を頂いたので若干複雑な設計。色々な部材の取合いが分かるように、工務店さん向け説明CGも作成しました。