中之島の国立国際美術館で開かれているクリスチャン・ボルタンスキー展に行ってきました。ボルタンスキー氏はユダヤ系フランス人アーティスト。日本国内では、香川県の豊島にある「心臓音のアーカイブ」が有名です。やまもとも豊島の作品が強く印象に残っていて、是非この展覧会は見たいと思っていたのでした。
豊島の作品も非常にシリアスで重いテーマですが、今回は国内初の大規模回顧展ということで、質・量ともそれを遥かに凌駕するものです。彼の作品のキーワードは「トラウマ」。この展覧会はまさに彼のトラウマの世界に迷い込んだような空間です。ここでの体験はおそらく一生リフレインして離れないのではないか・・・それほど強いインパクトでした。
アーティスト本人が構成したうす暗い会場には、件の大音量心臓音、くじらと交信するための装置(くじらの鳴き声のような音がする)、無数の風鈴の音が重なりながら響き渡っています。壁と天井に掲げられた無数の人物のモノクロ顔写真と、ピンスポで照らし出された展示物が暗示する人の死や不在。彼の作品の根底には絶えず「死」への問いかけがあり、それは多分に親族から伝え聞いたホロコーストの惨状の影響によるものだということですが、ここには実際の戦争のフィルムや遺物は一切ありません。しかし敢えて具体的な事件を引用しないことで、人間が人間に行ってきた様々な負の歴史が重く心にのしかかってきます。広島の平和記念館資料に入った時に感じる、あの感覚です。
「私の作品は、この場所そのものとそれにまつわる歴史的な記憶と悲劇、そしてそれらに対する私の解釈からなる一種のコラージュのようなものです。来てくれた一人ひとりが長い時間をかけて沈黙し、私の作品を通じて亡霊たちを見て、聞いて、感じてほしいと願います。(美術手帖 2016/9)」