1970年代初頭に建てられた小さな複合ビル。オーナーは相続でこの建物の管理を託されましたが、長年ほとんどメンテナンスされず風雨に晒され続ける間に老朽化と空室化が進み、抜本的な対策に迫られていました。ハウスメーカーや建設会社に相談されたものの、解体して駐車場にしたり賃貸マンションに建て替える提案ばかり。紋切型の事業物件を安価に造ってもまた早々に劣化するのではないか。コンクリート造の建物が40年程度で解体せざるを得ないというのはおかしい。幼い頃建設に立ち合った建物には思い入れもある。オーナーからそんな話を聞き、一度現地を見てみましょう、と言ったところからプロジェクトは始まりました。
建物はほとんど空室で、何十年も賃借している事務所が幾つか、あとは近くの建設現場が仮設事務所として間借りしている程度でした。ツギハギの修繕工事やリフォームで内部は意匠的にも法規的にも滅茶苦茶な状態。設備も劣化して汚水の臭いが漂っています。確かに解体するほうが手っ取り早いものの、シンプルな躯体は利用しやすいし、今では見かけない鉄製の金物や焼むらのある外壁タイルも見方によっては魅力的で、再生してみる価値はあるだろう、という意見で一致し、一棟リノベーションの計画を進めることになりました。
事業物件の計画では何よりリーシングが重要ですが、従来型の不動産会社では立地条件や床面積でしか物件を評価が出来ず、駅からやや離れた築年数の古い建物の魅力を十分に発信することが出来ません。そのためウェブ上で展開する不動産会社とタッグを組み、クリエイティブな層に訴求出来る最適なプランを試行錯誤しながら決定していきました。最終的には1階を大きな貸室と倉庫・駐輪場、2・3階は大中小の貸室と共用ラウンジ、4階は住居利用可能なSOHO、とバリエーション豊かな構成に辿りつきました。
意匠面では、建物を隅々まで実測し、老朽化した部分を修繕しつつ古くても確かな材料を残していく地道な作業の積み重ね。構造面は耐震診断の結果判明した脆弱箇所を、意匠とバランスを取りながら鉄骨ブレース・RC壁にて補強しました。設備面においても館内の配線配管は全てやり直し、防火区画や延床面積の考え方、消防設備を整理して建築基準法・消防法と合致させました。
工事は、内部の全面的なアップデートを行った第1期(2014-2017)に続き、屋上の室外機置場を共用テラスに転換した第2期(2017-2018)、劣化した外装を全面検査・補修し、まばらに浮き・割れを生じていたタイルを除去して新たな差し色を嵌め込んだ第3期(2020-2021)、と段階的に進められ、ようやく一応の完成を見ました。その間にウェブや建築系のデザイナー、アンティークやアパレル系の会社など様々な業種・業態の入居者が集まって、活気の溢れる施設に転換しました。オーナーも小さな部屋を確保して屋根裏部屋的に楽しんでおられるご様子。時折発生する古ビル特有の問題に対処したり、入居者からの意見をフィードバックさせながら、ますます建物は魅力的になっていきます。
Okayama Building
In Japan, large-scale urban redevelopment and reorganization is progressing, and companies are concentrating on the skyscrapers in the downtown area, so a lot of small old office buildings are left over. As the population of Japan decreases, vacant buildings are increasing more and more. The number of young people who find value in old buildings is increasing, but they do not gather in the decayed ruins. We were consulted from the owner of a small office building completed in 1971 in Osaka city. Although the interior finish was deteriorated and really bad condition, concrete framework and retro materials were beautifully aged. We suggested refreshing the building drastically and changing it into an office complex targeting creative people such as designers, architects, and artists. We carefully picked up good parts such as tiles, sashes and handrails, removed unnecessary signs and equipment, and returned to simple condition. We removed all of the interior, returned it to the framework of the concrete, and changed the layout to suit the contemporary needs. We planned rental office of various sizes, shared kitchen and lounge from 1st floor to 3rd floor. And we designed 2 SOHO rooms which have a cube containing sanitary on 4th floor. We also reinforced the structure by concrete wall and steel brace because this building is located directly above an active fault. The Mansard-shape steel brace facing the street became the icon of this building. Renovations were done in phases. The first phase (2014-2017) included seismic retrofitting, windows, and interior renovations; in the second phase (2018), the rooftop was converted to a common garden. In the third phase (2020-2021), the exterior was renovated. Old exterior tiles that were cracked or chipped were removed and new tiles were mixed in. As construction progressed, the design of the building resonated with the old and the new.
ファサード近景。2階の鉄骨ブレースがアクセント。
アプローチ。既存電気メーター盤を塗装して館内表示に転用。
朽ちかけていたビル銘板をリペア。レトロなフォントを再構成。
黒皮鉄と栗材で製作した集合ポスト。
101号室。天井一杯の開口部。
アプローチと101号室を仕切るレンガ壁。上海の古い家屋に使われていたものを再生。
アプローチ見返し。廊下幅を拡げて十分なスペースを確保。
アンティークレンガは通常の3倍の目地材で彫りの深い表情に。
階段は何も加えず、残す箇所と捨てる箇所をデザイン。
鉄製手摺は持ち手のビニールを剥がし素地に戻すだけで様変わり。
201号室。存在感を放つマンサード型の耐震ブレース。サッシも今回工事で入れ替え。
1階をRC、2階を鉄骨で補強することで耐震基準をクリア。永く使える建物とするため、見た目と中身の両方をリノベーション。
鉄骨耐震ブレースはパーツごとに製作、電線の隙間を縫って搬入し、現場にて組み立て。
廊下より201号室。
階段室はPタイルを剥がし壁・天井面を塗装。
共用部も床・天井をコンクリート躯体表しに変更。
古い雑居ビルでは忘れられがちな共用部のデザイン。来客のあるテナントにとっては実はとても重要。
301号室。歳月の中で各室ごとに様々な仕上げ・工法が施されたため床・壁は全て異なる表情。
302号室。床面はPタイルを剥がした後、モルタルで凹凸を調整、塗り床材でコーティング。釉薬をかけた焼き物のような風合い。
303号室。一番小さな区画。左奥は階段踊り場のデッドスペースを活用したロフト。
室名板は黒皮鉄のプレートに真鍮切り文字で部屋番号を貼付し製作。
階段に面する木製扉やアルミ扉は全て鉄扉に変更して、防火区画を確保すると共に重厚感のある雰囲気に。
第2期工事。単なる室外機置場を屋上庭園に改変。ペントハウスを挟んで南側は椅子座のルーフテラス。
北側のルーフテラスはBBQなど多目的に利用できる床座仕様。
第3期工事では剥落の恐れがあったタイル、クラックから浸水していた吹付け、錆が進行していた鉄部を全面的に検査の上、改修しました。外装タイルのうち、割れ・欠けが酷く薬剤注入で対処できない箇所は貼り替える必要がありましたが、建設当時と同じ焼きむら・色調・サイズのタイルはもう製造されていません。近似色で取り繕うのではなく、差し色となる新たなタイルを混ぜ込む事で、単なる修繕を超え、古いものと新しいものが共鳴するような意匠となればと考えました。
既存の小口平タイルとの相性を慎重に吟味し、色味4種×表面仕上げ3種をmix貼り。
「繕う」修繕から「善く」する修善へ。
概要 計画/2014-2017(第1期) 2017-2018(第2期) 2020-2021(第3期) 所在地/大阪市中央区 構造規模/鉄筋コンクリート造5階 用途/事務所・共同住宅 敷地面積/50坪[160m2] 延床面積/150坪[500m2] 施工床面積/190坪[620m2]
諸元 敷地面積/50坪[160m2] 延床面積/150坪[500m2] 施工床面積/190坪[620m2]
協働 設計監理/山本嘉寛[YYAA] 構造設計/[オオイシ構造一級建築士事務所] 施工/[三笘工務店] 屋上デザイン/松下岳生[soji] 不動産コンサルティング/[大阪R不動産] 金物/[上手工作所] 撮影/笹倉洋平[笹の倉舎]
受賞 名古屋モザイクデザインアワード銅賞/2017
掲載 【Web】architecturephoto/2022 【書籍】新建ハウジングプラスワン [新建新聞社]/2017 MINI BUILDING V [A&C Publishing(KR)]/2017 TILE DESIGN BOOK [幻冬舎]/2018 Naborhood Facilities vol 3 [ARCH-LAB.(KR)]
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