木川の長屋

大阪市淀川区。大きなマンションやオフィスビルと中小の戸建住宅・商店が建ち並び、交通至便な反面、日照やプライバシーの確保が難しい住環境です。お施主様は50代男性とそのお母様。戦前から続く長屋街が時代と共に分割・建替えられ、ビルの谷間に最後まで残った1戸がお施主様の住まいでした。それを解体して建て替える計画です。

設計にあたっては大きく2つの方向性が考えられました。1つは老後を見据えて敷地いっぱいの平屋を建て、トップライトから採光を取る案。もう1つは必要最小限の床面積に機能を詰め込んだ2階建てとして、敷地に出来る余白から採光を取る案です。各々の方向性を元に数案を検討し、最終的に後者を採用して設計を進めることになりました。

南北に細長い矩形敷地を各々4帖半程度になるよう2×4=8つに区画し、ガレージと玄関を兼ねる土間、母の寝間、親子の居間から成る3つの「間」と2つの広縁、キッチン、浴室、サニタリーを、効率的な動線と通風・採光・プライバシーを考慮しながら割り当てます。それらは間口に合わせて設えた「戸 = 間戸」の開閉によってつながり或いは切り離されながら親子の日常を支えます。

間戸は中間領域やバッファーゾーンといった曖昧な余地を残さず、ある閾値を超えた瞬間にONとOFFが切り替わる離散的なものとして設えました。室内外は透明性や連続性を表現するために仕上を統一するのではなく、あくまで機能的な必然性から適材適所で選択し、間戸を開け放った状態でも厳然と内部は内部、外部は外部であることを明示し続けます。そういう「間戸」を介した「間」と「間」、「間」と「縁」、「間」と「まち」との古典的な関係は、どこか長屋が持っていた空間の気積やつながり方を想起させます。

厳しい住環境の中、多様な設えが可能で通風・採光の取れた居住空間を獲得したいというお施主様のご要望に応えるうちに、かつての住まいが持っていた空間の骨格に辿り着いたことは、お施主様の中に染み込み、この地でたくさんの方々が営んできた長屋暮らしの記憶に少し触れることが出来たという事かもしれません。

Rowhouse in Kikawa

Yodogawa-ku, Osaka City is densely populated with buildings of various sizes and uses, such as condominiums, office buildings, small residences, and stores. Although it is convenient for transportation, it is difficult to secure sunlight, ventilation, and privacy.The client is a man in his 50s and his mother. The townscape of row houses built before World War II was divided and reconstructed over time, and the last remaining unit was the owner's residence. This project was to demolish and reconstruct it.The rectangular site, long and narrow from north to south, was divided into 8 cells (2 x 4 = 8), and a motorcycle garage, a mother's bedroom, a living room, a kitchen, a bathroom, sanitary facilities, and two terraces were allocated according to the lifestyle of two adults. The small cells are connected or disconnected by the opening and closing of sliding doors.The materials used for indoor and outdoor spaces are not unified to mimic transparency or seamlessness, but are chosen for their functional necessity, and even when the sliding doors are open, the interior and exterior remain separate areas. This relationship between room and sliding door reminds us of the traditional Japanese row-house approach.In response to the client's request for a living space with various uses, ventilation, and lighting on a small site, we ended up with a plan that inherited the spatial elements of the previous house. This project may have evoked memories of life in the many row houses that once existed in the area.

寡黙な表情の立面。外壁はガルバリウム鋼板の角波葺きとして、地域に多く見られる素材・工法を引用。

細身のエキスパンドメタル親子吊戸。普段は大きい戸を固定し小さい戸のみ開閉。自転車やバイクの出し入れ時は大小の戸を控壁へ収めて全開放。

吊戸全開放時。

玄関正面。道路側から奥の広縁へ視線が抜ける。

土間の壁・天井はクリア塗装したセメント板。塗料と素材の反応により釉薬をかけたような風合い。内部は主にラワンベニヤ仕上げ。

玄関から居間方向。広縁のベンチはエアコン室外機の格納庫を兼用。

母の寝間、広縁1、居間、広縁2のつながり。内部と外部が織りなす市松模様。

お施主様の生活スタイルに合わせて母の寝間と居間は畳敷。広縁の床・塀・ベンチは屋久島地杉で製作。

コンパクトな居間は天井高を上げ、トップライトを穿って窮屈にならない配慮。

ほぼフラットにつながる居間と広縁。

針葉樹合板で造った製作キッチンとアイランドカウンター。キッチン周りの壁面はウレタン塗装したセメント板。両脇に間戸を格納。

無駄を削ぎ落して設計条件を突き詰め、住み手にとって本当に必要な物だけが残ったインテリア。

居間から広縁、母の寝間見返し。

南側の建物高さを抑え、ビルの谷間でも十分な採光を確保。

玄関見返し。道路際の吊戸でセキュリティを取れば玄関戸は開放したまま生活出来る。南北長手方向に風が通り抜ける設計。

コンパクトな回り階段。手摺は細身のスチールフラットバー。

2階は息子さんの部屋とゲストルーム、収納を最小限の容積に納める。広縁・居間に面した連続窓から光が入る。

親類用のゲストルーム。

息子さんの部屋。デスクと本棚、服掛けを一体的に造作。

息子さんの部屋から見下ろし。開け放った居間は東屋のような様相。

寝間からの夜景。

広縁と浴室。掃き出しサッシを通じて出入り可能。

キッチンは幅2,700。シンプルながらアイランドと釣戸棚、食洗機を備え実用性重視。シンク下はオープンにしてゴミ箱を設置。奥に出窓を設けてワークスペースを拡張。

キッチンを挟んで左手洗面、右手脱衣・浴室。最短の動線計画。

広縁上空には将来邸にタープをかける予定。

洗面・トイレはコンパクトに階段下へ集約。

土間夕景。ダウンライトでシンプルなライティング。

吊戸左手のドアは壁面と同仕上で設えた小さな収納。バイク用品などを整理。

外観夕景。外壁面に吊戸が走るため門灯はアッパーライト。

1階平面図。

2階平面図。

概要 計画|2021-2023 所在地|大阪市淀川区 家族構成|男性+お母様 構造規模|木造2階 用途|一戸建ての住宅 敷地面積|22坪[73m2] 延床面積|23坪[81m2] 施工床面積|25坪[110m2]

協働 設計監理|山本嘉寛・大武みなみ[yyaa] 施工|[サンフィールド建築工房] 鉄扉|[徳澤鉄工所] 表札金物|[bowlpond] 撮影|山田圭司郎[YFT,]

掲載 architecturephoto(2024) アーキテクトビルダー[新建新聞社](2024)